【人事にまつわる課題】研修効果が定着しない

  • 2020.9.23
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91%の受講者に研修が定着していない

企業で実施されている研修は、受講者の能力を高めることで生産性を向上させる目的で実施されます。しかし、その多くが現場で実践されない形だけの研修になってしまっています。

下図からもわかるように、研修で学んだ内容を職場で実践する受講者は、1年後には9%まで減少します。

つまり、受講者の9割以上は、研修を受けても1年後には研修で学んだことを職場で実践できていないのです。

参考: Saks, A.M., & Haccoun, R.R. 2004. Managing performance through training and development (3rd ed.). Scarborough, ON: Nelson.

参考資料
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/9092?fbclid=IwAR3V7dfItfuZbcuwN9hVY3ARd9XnUzQE5xj_maFseXA0lUTOWYVn4y4F47w

研修効果が定着しないことで起こる問題

下図のように、研修にかけているコストと生産性には相関があります。
そもそも研修は、生産性の向上を目的に行われていることから、定着しない分だけ生産性の向上が望めなくなります。昨今叫ばれている働き方改革、残業時間の削減にはつながっていきません。

日本のGDPに占める能力開発費は非常に少ない傾向(アメリカの1/20)にあり、先進国の中でも生産性は低い水準を推移しています。
労働生産性を向上させるためには、人的資本への投資により力を入れていくことは必須であるとされています。

また、成長意欲が高い人材ほど、研修が少ないことでその会社や自身のキャリアアップに悲観的になり、他社への転職に積極的になっていきます。
人口減少や新型コロナウイルスによる経済低迷の中、日本企業が生き残るために必要かつ効果的な研修への投資が求められています。

研修効果が定着しにくい要因とは?

研修で学んだことが仕事の場で成果として出るまでの過程には、様々な障害が存在します。

カーク・パトリックが提唱した「4レベル評価モデル」を基に具体的な障害を列挙しますと、

レベル1の段階では、主に講師や研修のコンテンツが原因となって「説明は受けたが納得していない(腹落ち不足)」状態が発生しやすくなります。

次にレベル2では、レベル1の壁を越えて研修で良いことを聞けたと受講者が思ったとしても、自分の言葉で理解できていないことが多い(言語化不足)ため、行動に移す前に忘れてしまいやすいとされています。
ちなみに、行動に起こす段階となってくると研修から時間が経ってしまっていることが多く、講師の力量だけでは研修効果が定着しがたくなることから、「この段階(=研修転移)が最も大きな障害」とされています。

レベル3では、「研修転移」の壁を乗り越え、実際に行動はしてみました。
しかし、評価制度や会社の行動指針、社風などと内容が一致しておらず、上司や別のメンバーに否定されてしまったり(現場否定)、できると思っていたものの現場で実際に応用してみるコツがなかなかつかめない(応用不足)などの事態が発生することで生産性にはつながりづらい状況が続きます。

今までの壁を越え、遂にレベル4の段階である成果に結びつけられたとします。
しかし、成果に結びつけられたとしても、上司や組織から評価されない(評価不足)、といったことが生じることで学んだことを繰り返し実行しようとは思えなくなっていきます。

以上のように、本来、研修というものは単発的に実施されるべきではなく、複数回にわたるフォロー研修や評価制度、上司への研修期待値の調整など様々な要素を同時に設計・見直しすることが必要となってきます。

参考資料https://corp.en-japan.com/success/10495.html?fbclid=IwAR1MmUL8vQxZar0ec6mtrV_ccqqe8fIm6HzQ9exubvgQpmnfKmzR_06QQ1Q

研修の内容によっても定着率は変わってきます。
たとえば、セミナー型の座学研修だけでは話を聞く⇒シェアする⇒行動計画を立てるといった学習サイクルしか回すことはできません。
しかし、体験型の研修の場合、上記の中に「実践・体感する」というサイクルが加わることで研修内容に沿った体験を反復学習していくことができます。
そのため研修中に何度も学習サイクルを経験することができ、頭に入れた知識を「身に着けること」「言語化」できるようになります。
近年アクティブラーニングによる学習が注目されているのにはこういった理由があります。

【参考資料】研修内容にもよるが、研修の中でディスカッションをしたとしても学習定着率は半分ほどhttps://www.nucba.ac.jp/active-learning/entry-17091.html?fbclid=IwAR3V7dfItfuZbcuwN9hVY3ARd9XnUzQE5xj_maFseXA0lUTOWYVn4y4F47w

研修で学んだことをすぐに体験した方が定着しやすいという事実は、エビングハウスの忘却曲線からも言えます。
記憶は1時間後には56%忘れてしまうと言われており、短期間で反復学習する体験型研修の他にも、ビジネスゲームもおすすめです。

引用先 人は1週間後に77%を忘れてしまう(エビングハウスの忘却曲線から)https://www.aand.co.jp/blog/2016/10/20161029.html?fbclid=IwAR0k_NwMU6eZ209esBmb53v0yZywFP1fdG3fQwHoPh4EREQwXwuryH2oZgg

研修転移の壁を乗り越えるには?

研修効果を定着させるためには、3つの壁があると言われています。
1)記憶の壁 2)実践の壁 3)継続の壁 です。

前述の忘却曲線でもありましたように、人は忘れやすい生き物です。
「1年前に受けた研修の内容を3分ほどで説明してください」と言われたとして、どれほどの人が流ちょうに語りだすことができるでしょうか。

次の壁は、学んだことをやってみるかどうか、です。
これには、モチベーションの問題と研修で学んだことを現場で実践できる機会があるかどうか、という機会の問題があります。

前者には、研修の最後で自己効力感を高めるのが重要です。
後者は、参加者の上司や同僚をうまく巻き込みながら現場で学んだ内容を実践することがポイントです。

最後に、研修で学んだことによって始めたことを継続するためには、やらなくてはならない状況を社会的につくるのが重要です。
具体的には、前回の研修から時期を空けてフォロー研修を行うとか、評価制度に取り入れるなどです。

上記3つの壁を乗り越えるための取り組みとして、これまで研究や現場で実践されてきたものをまとめたのが下図になります。

人事担当者にとって、研修を企画したはいいものの、実際に役立っているのかわからない、そもそも現場で実践しているのかわからない、というのはよくある悩みだと思います。

下図は、上図の研修を定着させるための取り組みを行うタイミングと立場によって使う頻度(使用度)と影響を与える度合い(影響度)を 表したものです。(「転移マトリックス」Broad&Newstorm 1992)

講師が事前課題を出すなどして受講者の意欲を高めることが効果的なのがわかります。
最も重要なのが、マネージャーが研修を受ける前に研修そのものの意味づけをどう行うかと、研修を受けた後に現場でどう実践・応用させ、評価につなげるか、ということです。

”研修後”の”マネージャー”のかかわりまで研修前から設計しておくことがオススメです。

参考資料 http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/9092

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