【人事にまつわる課題】ウェルビーイングを意識した経営とは?
職場での取り組みポイント<前編>

  • 2022.12.27
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人事部のお悩みあるある。「メンタル不調者が多い」の解となるヒントを今回もお届けします。

それは「well-being/ウェルビーイング」です。
まさに、HRにまつわるトレンドではないでしょうか?

実はこのワード、世界的なトレンドでもあるのです。
すでにご存知の方も多いかと思いますが、
では「実際に具体的にどのような事なのか?」
または「なぜウェルビーイングが必要なのか?」と感じるところもあるのではないでしょうか?

株式会社アドバンテッジリスクマネジメントがウェルビーイングの考え方と経営について行った調査では、以下のような結果が出ております。

質問 貴社では、「ウェルビーイング」の考え方を経営戦略や人事施策に取り入れていますか?
選択肢より、貴社の現状に最も当てはまるものをお選びください。(単一回答)

全体的にみると、ウェルビーイングを
「取り入れている」企業は24%
「検討している/検討したい」を含めると全体の50%以上です。
従業員数1001名以上の大企業においては、ウェルビーイングを進めようとする気概がわかります。

一方、企業規模が小さくなるにつれ関心も小さく、一定数がウェルビーイングについて「把握していない」ことがわかります。

ウェルビーイングの効果として、ポジティブ心理学の研究により明らかになってきたデータが以下です。

☑イノベーションと創造性が300%上昇
☑人材の流出阻止率44%向上
☑営業成績が37%向上
☑ 業務の生産性が31%向上
☑ 燃え尽き症候群が25%減少
☑病欠日数が66%減少
☑離職率が51%減少
どれも衝撃的な数字ですね。

なかなか現実的にイメージできないような数字ですが、
「えー、そうなんだ」「そうらしいね」と他人事に終わるのではなく、その可能性がある!
と信じて取り組んで行くことが大事なのかもしれませんね。

今回は、「ウェルビーイング」を意識した経営について具体的に再現するためのポイントやノウハウなどについて、整理・ご紹介していきたいと思います。
参考になれば幸いです。

では、深掘りタイムスタートです!

目次(前編)

1、ウェルビーイングとは
 1-1.ウェルビーイングの意味
   世界的トピック=「ウェルビーイング」
 1-2.「Well-being」の種類 
   ①ポジティブ心理学の領域から「well-being」5つの要素
   ②ギャラップ社による「well-being」5つの要素
   ③幸福研究の第一人者が開発した「主観的ウェルビーイング」
2、企業にウェルビーイングを導入する必要性
   メリット
   デメリット
   私たちのウェルビーイングを知る
   生活満足度割合と一人当たりの実質GDPの推移
3、まとめ

後編(次回2023年1月公開予定)は、
1、企業のウェルビーイングを向上するためのノウハウとは?
2、社内で取り組む方法、(事例など)
3、まとめ

1、ウェルビーイング(Well-being) とは

ぶっちゃけ、「ウェルビーイング」ってなんだろう?と思いませんか?
言葉の語源から、現在の解釈まで見てみましょう。

1-1.ウェルビーイングの意味

ウェルビーイングが初めて言及されたのは1946年で世界保健機関(WHO)設立にあたって考案された憲章に含まれています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。)

ーー社団法人 日本WHO協会「世界保健機関(WHO)憲章

この発言は、歴史はあるのですが確定された定訳はなく、学者、研究者により表現が異なります。
「良好な状態」「普通の状態」「いきいきとした状態」「ウェルフェア」「ハピネス」など。

ハピネス:一時的な感情を表すもの
具体的には・・・
高額宝くじが当たった。
好きな芸能人に会う。
好きな映画を見に行く。 など。

ウェルビーイング:持続的な幸せ、健康、幸せ、幸福、満足の行く状態、
         各個人の身体的、または精神的な感覚に関する心の主観的な良好な状態
         自分にとってより良い状態で自分が存在すること。
具体的には・・・
志望校合格を目指し日々勉強をする。
全国大会出場に向けて、チームで厳しい練習に取り組んでいる。
地域のボランティア活動を主催、実施している。
新メニュー開発のため、チーム編成し素材探しに全国を奔走している。

このように、自分個人が幸せである状態以外にも、関係する人々・家族、環境・地域、企業、所属組織などとの関わりが全て関係します。
そして、一時的な充足、幸福ではない、持続的に充実して満足である状態を意味します。
例えば、長年持病を持つお父さんが、家族や地域社会とも関係良好で、仕事は幾人かのスタッフと事業に貢献し充実した生活で幸せと感じている。となれば、たとえ健康障害があるとしても、それは「ウェルビーイングが高い状態だ」と言えるのです。

世界的なトピックス=「ウェルビーイング」

昨今は、「ウェルビーイング」が、世界的潮流で国家マターに移行しているとも言われています。
具体的には、米国は兵士に対する教育プログラムに採用しています。
韓国・ドイツでも実施しています。
教育現場に積極的にシステム導入しているのは、イギリス、オーストラリアです。
中国でも2050年に向けて教育現場への導入検討の宣言をしています。
フランスでは、法務省で刑務所を活用する試みが行われました。

我が日本では、2021年の政府の骨太方針成長戦略に採用され、
「一人一人の国民が結果的にウェルビーイングを実感できる社会の実現」を断固たる意思を持って実行する。と記しています。

こうした取り組みが注目されている背景には、
持続可能な開発目標のこと=「SDGs」(エスディージーズ)があります。
2015年9月の国連サミットの採択内容に記載され、2030年までに持続可能でより良い世界を目指すための国際目標として掲げられています。
この目標の一部に「well-being」が組み込まれた、ということで世界の多種多様な現場で広がりを見せているわけです。

また、2019年からは新型コロナウイルスの感染拡大により、改めて
「良い生き方とは、どんな生き方なのか?」
「人が充実した活動を行うことができる組織や社会条件とは?」
というテーマが個人や企業に強烈に突きつけられたことも大きく影響しているかもしれません。

1-2.「Well-being」の種類 

人間の幸せとは、どのような要素で波打つのか?幸福について深く研究している代表的な3つのWell-beingについて、見ていきます。

  ①ポジティブ心理学の領域「Well-being」

 心理学者のマーティン・セリグマン博士らが提唱した「ウェルビーイング」を高めることができる5つの要素「PERMA」です。
ウェルビーイングの状態を測る指標となる要素(5つ)は、以下の通りです。

ポジティブ感情(Positive Emotions): 楽しみ、快感、ぬくもりなど明るい気持ちのこと。
エンゲージメント(Engagement): 没頭、没入、夢中、熱中、フロー状態のこと。仕事に完全に没頭していて、振り返ってみると自分にとって時が止まっていると感じる状態のこと。
関係性(Relationships): 援助、協力、質の高い人間関係であること。関係性とは他者との良い人間関係のことを示します。人生において起こる素晴らしいことのほとんどは他の人が関係してきます。
意味・意義(Meaning): 人生の意義、目的、大切なこと。自分よりも大きいと信じる存在に属して仕えることです。人生の意味や仕事の意義がはっきりしており、目的を追求できているかが関係します。
達成(Accomplishments): 熟達している実感、達成、成果。達成とは何かを成し遂げることです。ここでは、お金を稼ぐことが好きだからお金を稼ぐなど、そのもののよさのために達成を追求することも含まれます。

これら五つの要素は頭文字を取って「PERMA(パーマ)」と呼ばれています。
どれ一つとしてそれ単体でウェルビーイングを定義することはできません。
人生の選択は、これら5つの要素を最大化することによって決まると言われています。

セリグマン博士によると、ウェルビーイング理論において目指すところは「自分の人生と地球上の持続的幸福の量を増やすこと」だそうです。

一時的な個人の満足度の値が重要視される従来の幸福理論とは異なり、ウェルビーイング理論では持続的(Flourished)な幸福を追求します。

②ギャラップ社による「well-being」

アメリカに本社を置く世論調査企業のギャラップ社は、世界150カ国における調査の結果、PERMAとは異なるウェルビーイングの5つの要素を導き出しました。その内容は以下の通りです。

Career Wellbeing(キャリア ウェルビーイング): キャリアのウェルビーイング。
ここでいうキャリアとは生計を立てるための仕事だけに限らず奉仕活動、育児、勉強など「一日の大半を費やしていること」を指します。
Social Wellbeing(ソーシャル ウェルビーイング): 人間関係のウェルビーイング。
信頼と愛情でつながっている人間関係を持っているかどうかを指します。
Financial Wellbeing(フィナンシャル ウェルビーイング): 経済的なウェルビーイング。
安心して満足するような生活ができるよう資産をきちんと管理運用できているかです。
収入を得られる手段をもっているのか、資産をしっかりと管理・運用できるのかなどが重要です。
Physical Wellbeing(フィジカル ウェルビーイング): 身体的なウェルビーイング。
自分がしたいと思ったことやするべきことを不自由なくこなすエネルギーがある健康状態が望ましいです。

Community Wellbeing(コミュニティ ウェルビーイング): 地域社会でのウェルビーイング。
地域のコミュニティと深く関わっていて、つながっている感覚があるかどうかです。

これらの5つの要素は、国籍や信仰、文化などのバックグラウンドを問わず当てはまると言われています。

前述したPERMAとは利用目的が異なるので単純比較することはできません。

幸福研究の第一人者が開発した主観的ウェルビーイング」

国連が毎年3月20日に発表する「世界幸福度調査」の設問に採用されています。

イリノイ大学心理学教授で、幸福研究の第一人者といわれるエド・ディーナーが開発した理論です。これは、ポジティブ・ネガティブな体験、人生の満足度の評価を自己報告するものです。
体験は計10項目でネガティブ体験とポジティブ体験からなります。
評価はキャントリルの階梯と呼ばれる10段階で行います。
理想の生活を10点満点とし、最低な生活を0点で採点報告される仕組みです。

ちなみに、、客観的ウェルビーイングは「GDP」「健康寿命」などのことです。

2、企業にウェルビーイングを導入する必要性

我が国でウェルビーイングを意識した経営を導入している企業の時価総額の推移データをみてみましょう。

ウェルビーイングを導入している企業の時価総額の推移

引用:経済産業省「企業の「健康経営」ガイドブック

「ウェルビーイング」の概念を取り入れた「健康経営」で事業運営を行っている企業が、ここ5年でより高い時価総額となっているのが分かります。 
本当なの?と、疑いたくなるデータですが、この事象は世界的にも同じような傾向が起きています。

例えば、アメリカでウェルビーイングを採用した経営を実施している企業と米国の代表的な時価総額の高い企業(ウェルビーイング不採用)のパフォーマンスについて比較したところ、圧倒的にウェルビーイングを主体に取り組んでいる企業が、長期的にはパフォーマンス力がある、という結果が出ています。

ここで、経営組織においてのウェルビーイングのメリット、デメリットについて整理していきましょう。

メリット

冒頭でもご紹介しましたが、、、

デメリット

・再現性に時間がかかる
・幸福指数(ウェルビーイング)を定量化(測定)するのが難しい
・企業カルチャーとして浸透する、醸成するのにハードルがある    ・・・など

ウィルビーイングを主体とした組織作りや経営は、短期的・一時的に業績推進力の鈍化や業績に直結しない人材資本投入がマイナス評価にあたります。

しかし、一時的なマイナス要因から抜け出したのちに
・長期的なパフォーマンス力のある組織となり、企業価値UP
・優秀な人材の獲得、定着率向上          
ということがわかってきましたので、正しくは
一時的なデメリットという方が、フィットするかもしれませんね。

例えば、目の前の課題に苦しんでいるときはウェルビーイングが阻害されている状態ですが、それは一時的なもので、課題を乗り越えて達成感や自己効力感が得られれば、持続的なウェルビーイングは充足されて組織経営全体、総合的により良いパフォーマンスの向上や効果が期待できるということです。

私たち(日本)のウェルビーイングを知る

幸福度ランキングでも世界的に日本は先進国である中でもとりわけ低いことはよく知られた事実です。(ランキング表)

 出典:株式会社バークレーヴァウチャーズ「2016年度 Edenred-Ipsos Barometer 調査」

株式会社バークレーヴァウチャーズが実施したウェルビーイングの満足度調査を見ると、
インド・・・88%
メキシコ・・・81%
アメリカ/チリ/ブラジル・・・77%
これらの国が高水準です。
15ヶ国全体の平均は、満足度71%と高水準です。 
一方、日本のウェルビーイング満足度は44%と最下位です。世界平均値よりも低いですね。

日本の満足度が低い原因として考えられているのは、ランキングの判断要素(軸)が「西洋的」であるため、ともいわれたりしていますが、現在はこれを事実として受け止めるべきでしょう。

もう少し、我が国のウェルビーイングについての資料を見てみます。

生活満足度割合と一人当たりの実質GDPの推移

生活満足度割合と一人当たりの実質GDPの推移の相関関係がわかるものです。

出典:第一生命経済研究所調査データ

右肩上がりの日本のGDPですが、一方、生活満足度数は60年代からほとんど変化がない事がわかります。
GDPが高い=人々の幸福度も向上する。ということではない、ということが良くわかりますね。

別の見方をすれば、従業員のウェルビーイングの向上を目指すことで、新たな分野の事業展開、もしくは経営向上の期待が持てる、伸び代がある、未知数である、という期待感あるデータである。
と読み取れるのではないでしょうか。

3、まとめ

いかがでしたでしょうか?
ウェルビーイングは、概念的なものであり変化し続けるもの。というのが少し分かってきたかと思います。
対象が、人と人との関係性や、対個人の基準や概念なので当然かもしれません。

企業にウェルビーイングの考え(概念)を取り入れる、ということは
人材戦略と経営戦略を分断せずに、相乗関係を効果的にするため
総合的に見える化し、
長期的に評価できるようにする。ということですね!

今回前半は、ウェルビーイングの理論や研究、その現実を見てきました。

次回は、企業にウェルビーイングを取り入れるポイントや実際に取り組んでいる企業事例などについて、見ていきたいと思います。
後編も是非、お楽しみに!!

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